2017年以降の不動産相場を不動産鑑定士が徹底解説・・・

この記事のオファーを頂いた時、久しぶりに冷や汗が出ました。

というのも、不動産市場動向分析は「不動産」という名称はあれども一般の経済動向予測に他ならないからです。

そのレベルへ行くと経済評論家=エコノミストや経済学者、シンクタンクの研究員レベルでないと「不動産市場はこうなります」と自信を持って公言することはできないからです

しかしそれでは記事にならないので、実際の取引現場にいる大手不動産業者の支店長などから聞こえてくる生の情報を紹介しながら不動産市況の読み方を解説したいと思います。

不動産鑑定士が不動産鑑定評価を行う場合はこう分析する


ちなみに不動産鑑定士は「不動産の専門家」として唯一価格又は賃料を鑑定評価することでお金を貰える国家資格者です。

(※宅建業者が査定でお金を貰っているとしたら鑑定業法違反です)

その私達の成果物である不動産鑑定評価書を作る場合どのような分析を行うのか?

一般の方は全くご存知ないと思いますが、参考に少しだけご紹介します。

不動産鑑定を行う場合

1 「一般的要因の分析」
2 「地域分析」
3 「個別分析」

という3つの手順を踏みます。

1 は簡単に纏めると一般経済社会における経済動向の分析です。

「貸出金利が低い状況が続いている」
「景気は上昇傾向にあるが一般消費者の消費行動は弱含みである」

という感じの難しい言い回しとグラフや統計を添付した文章が続くのですが、それらは客観性を保つために様々な経済指標を引用しています。

例えば以下のようなデーターです。


内閣府 国民経済計算(GDPなど) 
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html
日銀短観 
http://www.boj.or.jp/statistics/tk/index.htm/

他にもあるのですが一般経済動向はこのような統計を見ます。
次に不動産市場の動向は以下のようなHPです。

日本不動産研究所 公表資料(市街地価格指数など) 
http://www.reinet.or.jp/?page_id=166
不動産経済研究所 マンション・建売市場動向 
https://www.fudousankeizai.co.jp/mansion
不動産経済研究所 市場調査・統計データー 
https://www.fudousankeizai.co.jp/daily?cateid=3
CBRE 事業用不動産マーケット情報 
https://www.cbre-propertysearch.jp/article/market
東京カンテイ 市況レポート 
https://www.kantei.ne.jp/report/
三友システムアプレイザル 三友地価インデックス 
https://ssri.sanyu-appraisal.com/SSRI/sanyu_land_prices_index

大手鑑定業者の統計データーの他に不動産業者独自のデーターも実証的です。

野村不動産アーバンネット価格動向調査(実勢調査)
http://www.nomu.com/knowledge/chika/

三井不動産 不動産関連統計集
http://www.mitsuifudosan.co.jp/realestate_statics/

挙げるともっと出てきますが、いずれも一般の方が「パッ」と見て「ふむふむ」とわかる内容ではないでしょう。

不動産鑑定士は「不動産の専門家」ではありますが「経済の専門家」=「経済評論家」ではありませんので、こうしたデーターをバックボーンにしながら一般経済社会における不動産の市場動向を合理的なデーターに基づき予測するわけです。

2 の「地域分析」は「地域の中の不動産」という不動産鑑定の考え方に基づき、対象不動産の存する地域の範囲を決めて分析することです。
(※詳細は省略します)
3 の「個別分析」は対象不動産そのものについての分析です。(※ここも詳細は省略します)

不動産鑑定の詳細までは知らなくてもいいのですが、
簡単に纏めると

「一般的要因の分析」(マクロ的な経済動向分析)

「地域分析」(対象不動産が存する地域を区切り、範囲を絞った上での分析)

「個別分析」(対象不動産そのものについての分析。

ある意味での「ミクロ」な分析)という風に「マクロ」から始まって「ミクロ」へとアプローチするような考え方になっているのです。

2016年までの不動産市場はどうだったのか?(過去の実情を分析)


鑑定評価の世界でも「変動の原則」という言葉が基準(=不動産鑑定評価基準)の中にあるのですが、改定されてしまいました。

昔のバージョンで言うと

「今日の価格は昨日の展開であり、明日を反映するものであって常に変化の過程のあるものである」

という一文でした。

そう、2017年も去年2016年の展開を受けて未来に通じているわけです。

将来動向を紐解く前に2016年はどうであったのか?


実は2015年の冬に大手不動産業者の都心5区内の支店長(同期生)と会食した時

「港区も湾岸エリアも中国人の『爆買い』は止まっているよ」

と、市況を熱く語っていたのです。

彼が2015年の秋ごろには「爆買い停止」を感じていましたが、その記事が経済情報誌に載ったのは2016年の春から夏頃だったと記憶しています。

つまり、現場レベルが実態として感じたことがマスコミレベルで報道されるまでにはタイムラグがあるのです。

また売る側の常套句は

「2020年東京オリンピック開催までは好景気が続くでしょう」
「港区の湾岸エリアでは再開発によって周辺のマンション需要が固い」

など、オリンピックまでは好景気が続く事を前提にしています。

逆を言えば「東京オリンピック終了後は景気減速が起きる」と売りたい側も予測しているのです。

不動産を購入するならば林修先生の決めゼリフである

「今でしょ?」

と言いたいわけです。

この景気減速のタイミングをエコノミストが予測し続けており、去年のうちに景気減速が起きる予測がかなり経済雑誌にも書かれました。

ところが日銀が2016年1月に発表したゼロ金利政策延長の発表により景気は持ち直したのです。

その結果新築マンションの価格は都心三区の港区を中心に上昇が続き、需要者が考える相場を飛び越えたため、新築マンションの売れ行きが鈍り、そのかわりに築浅の中古マンション市場へ需要者が流れる結果を生みました。

新築マンション用地は都心で不足し、仕入れが困難な状況になりました。

これに対し不動産投資市場は相変わらず活況を続け、相続税増税以降、地主層が税金対策でアパートを自分の土地に建てており、金融機関もアパートローンの貸し出しに力を入れるようになったのです。

2016年を総括すると、都心三区を中心とするエリアと、郊外、地方都市の人気エリアは価格水準が上昇・微増または横ばいなのに対し、それ以外のエリアは下落傾向か弱含みという「二極化」が鮮明となった年でした。

2017年現在の不動産市場はどうなっているのか?現状分析


今年も半分の6月にこの記事を書いていますが、テレビ番組の特集でもアパートローンの過剰融資に金融庁が目を光らせていることが取り上げられました。

埼玉県の郊外地でしたが、もともと人口も少なく大工場が付近にあるような賃貸需要の乏しい場所に地主が相続対策でアパートを建てたことが原因となり、空室率が上昇し、一棟に何室も空室がある状況を放映していました。

同様な現象は郊外地のあちこちで起きていると思います。

今現在不動産投資市場は相変わらずの過熱ぶりで、利回りが下がり続けています。いい物件は右左に流れる状況が続いています。

20年前私が新人の営業マンだった時支店長が

「(表面)利回りが4%を切ったらバブルは崩壊するよ」

と平成バブル期の体験で語っていましたが、3%台まで落ち込んでも「バブル崩壊」と同じ現象は今の所起きていません。

もっとも平成バブルの時と現在は大きな違いがあります。

それは平成バブルの時代は都心部だけでなく、地方都市、それどころか北軽井沢の原野だとか、

山奥の山林まで価格が上昇した時代なのに対し、

現在の状況は都心三区を中心とする首都圏の人気エリアが盛り上がっているのに対し、

地方都市も一部の人気エリアで上昇がみられる以外、利用することもない原野や山林は弱含みのまま「低位安定」状態です。

こうした「売れている場所」と「売れない場所」との二極化がより鮮明化しています。

この記事をお読みになるマイホーム売却・購入者の方は不動産投資市場の利回りの話など聞きたくないかもしれませんね。

しかし不動産市場は一般経済動向と密接に繋がっていますし、投資動向も廻り巡ってマイホーム市場に影響を与えることは認識して欲しいと思います。

そのマイホーム市場は都心部新築マンションの価格が弱含みでやや下落傾向、首都圏の地価も上昇傾向は続くものの下げ止まる気配を見せている状況です。

2017年以降(将来動向)はどうなっていくのか?


最初にハッキリと言います。

「不透明でハッキリしません!!」

シンクタンクの研究員や日本不動産研究所、東京カンテイなど、大手鑑定機関の研究員レベルでも将来動向予測は意見が割れます。

ただし多くの不動産業界人が東京オリンピック後の景気減速を予測し、実際は2020年の前に先を見越して高値時の売却に動くことを予想しています。

私がハッキリ言えることは

「景気の波は繰り返す」

ということだけです。

戦後の朝鮮戦争特需から考えて見れば、景気は上下の変動をある程度一定の周期で繰り返しています。

ただ平成バブルの後遺症は長く続き「失われた10年」と呼ばれました。

それが「今年から反転する」「来年から」とまた予測合戦があり、その後「ITバブル」「ミニバブル」という一時的景気回復がありました。

経済評論家が記事を依頼されたら「2018年はこう動く!」と様々なデーターを論拠に持論を展開するのですが、くれぐれも不動産鑑定士は「不動産の専門家」であって「経済評論家」ではありません。

競輪場の「ノミ屋」「コーチ屋」のように最終レース終了後、姿を消すわけにはいかないので「あてずっぽ」な事は書けません。

しかし読者の皆さんが様々な情報を見る際のアドバイスをしたいと思います。

不動産業者は自らの営業に不都合な記事を書くことはない

当然ですが「来年はマンションが売れなくなります」という記事は思っていても書きません。

売り手の心理からすれば当然です。でもウソで固めるわけにはいかないので、真実を散りばめながら都合の良い結論に落ち着かせるように書いてありますよ。

統計資料は「過去のデーター」なので現時点を示していない

私達不動産鑑定士が携わっている「地価公示」「都道府県地価調査」が発表される時点は、半年近い期間を掛けて評価作業を行った後数か月で発表されるため、決して「タイムリー」な情報とは言えません。

あくまで「1/1時点では」「7/1時点では」の話です。

私は不動産業者出身の鑑定士なので、鑑定士でありながら統計やグラフが大嫌いです。

実際に取引の現場に出てみると数字では表せないナマの情報を得られます。

中立の立場であるエコノミストは予測が大胆

参考にすべきは経済評論家の意見ですが、「マクロ的」な視点に立っての意見が多く、不動産分野だけを見ているわけではないので分りにくいことが難点かもしれません。かつ予想は大胆に書かれているケースが多いものです。

今回は市況分析の記事でしたが、結局のところ2017年以降の動向は不透明で読むのが難しい状況です。

「いつ不動産価格の下落が起きるのか?」という質問があれば「来月かもしれませんよ」と怖い事をお話しています。

というのも、去年からずっと「景気減速は2020東京オリンピックの数年前」と予想する評論を多く見掛けるからです。

一方で「東京オリンピック開催は景気動向に大きな影響を与えない」という記事まで出ています。

鑑定理論の中にある一語で今回は締めさせて頂きます。

「予測の限界を見極めなければならない」

著者:神林勝利
不動産鑑定士_神林さん
不動産鑑定士・宅建取引士。1966年生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。野村不動産(株)流通営業部(現・野村不動産アーバンネット株式会社)のリテール向け売買仲介営業マンから不動産鑑定士に転身。独立後約10年間法人経営者として宅建業・鑑定業を営む。法人の営業譲渡後「神林不動産鑑定士事務所」代表として執筆活動や不動産コンサルタントを行っている。