手持ちのマンションを売却せず賃貸物件として運用することを考えている方も多いでしょう。

東京オリンピック前の好景気で不動産投資に目を向ける人も増えています。

しかし、初めから投資目的で賃貸用のマンション一室を購入することと、自ら住んでいるマンションを賃貸物件にすることは全く別のことです。

では一体どのような違いがあるのでしょうか?

自ら住んでいるマンションを賃貸することによるメリットとデメリットをそれぞれ纏めてみました。

マンションを賃貸する場合のメリット


・毎月賃貸収入を得られる

マンションを賃貸した場合、当然ですが、毎月設定した賃料を得ることができます

例えば東京都世田谷区の小田急線沿いにある築15年で間取りが2LDKのマンションを賃貸にした場合、面積にもよりますが、14~20万前後までの収入を毎月得ることができるでしょう。

得られる収入で住宅ローンの返済を賄うことができるかもしれません。

ワンルームは最初から投資を前提として作られているため、ここではファミリータイプについて考えます。

不動産投資についての詳しい話は別の機会にお話しますが、居住用物件は店舗事務所ビル投資に比べて安定的な収入が見込める投資対象です。

事業用物件は事業、つまり商売をする目的で借りるので、事業が上手くいかなければ半年未満で撤退することも普通ですし、一度空室になると場所にもよりますが、再びテナントが入居するまでタイムラグが生じることも多くあります。

これに対し居住用物件は、一旦入居すると転勤や子供の学区への転居など、引っ越しする理由が生じない限り2年間の賃貸借契約終了後も更新して入居が長期間に及ぶことが多いと言えます。

特にワンルームのような単身者向けでなく、家族で居住するファミリータイプの入居者は長く居住するケースが多いのです。

このように居住用マンションを賃貸した場合、比較的安定的な賃貸収入が得られるメリットがあります。

マンションを賃貸する場合のデメリット

・ファミリータイプの賃料水準は案外低い

マンションを売却せず賃貸するメリットは「賃貸収入を得られること」でした。

しかし、専有面積が大きくなればなるほど賃料も高額になるのですが、築浅ワンルームが10万超でも貸せる場所があるのと比べれば、ファミリータイプの賃料は割安なのです。

何故かと言うと、15万超あたりから「購入」というオプションと競合するからです。

仮に世田谷区内にある賃料が毎月20万のマンションを借りるとすれば、年間に240万の家賃を払うことになります。

これを5年間借りるとすれば1,200万も家賃を払うわけですが、勿体ないと感じませんか?

よくマイホームの「賃貸派」「購入派」で議論されていますよね。

その結論はともかく、5年で1,200万払うのであれば、10年で2,400万です。

「買った方がいいんじゃないか?」

そう思うのが普通です。

つまり高額賃貸物件は常に「マンション購入」と競合関係になるのです。

ワンルームは一人で悠々自適な老後を送ろうと購入する方はかなりまれだと思いますが、ファミリータイプは家族がそれそれ独立するまで生活する場所です。

将来買いかえるにせよ、子供達に与えるにせよ「資産」として残そうと考えて購入オプションを取る方が多いと思います。

従って港区内の一等地にある高級低層マンションで賃料月額120万など、一部の特殊な需要を除くと専有面積に比べて賃料が安くなるデメリットがあります。

・賃料収入に対し税金がかかる

マンションを売却しないで賃貸した場合、毎月得られる賃料収入を毎年確定申告しなければなりません。

不動産賃貸収入は「不動産所得」という名称で扱われて課税されます。

マンションを保有していれば毎年かかる固定資産税と都市計画税を支払うわけですが、マンションを賃貸して利益が上がっていれば、更に税金が課税されるデメリットがあります。

投資目的で不動産を購入する場合、よくあるのが高額所得者の節税目的でのワンルーム投資ですよね。

わざと賃貸経営で赤字を出すことにより、給与所得との「損益通算」というしくみを使って所得税・住民税を減らし、給料の手取り額を増やそうとするやり方です。

マンションを売却しないで賃貸する場合にも、このような戦略が使えればいいのですが、儲かって利益が出た場合、税金が増えることを忘れてはいけません。

・賃貸中のマンション売却価格は普通に売るよりも安くなる

マンションを売却せず賃貸に出した後、急に換金する必要が生じたとします。

その場合、売却価格はREINS(レインズ=不動産適正取引推進機構のオンライン)や「東京カンテイ」の成約データーに基づく同じマンション内の成約・募集事例で査定した価格とは全く別個の査定をすることになります。

賃貸されている物件を賃借人が借りて住んだまま売却することを「オーナーチェンジ」と呼びます。

この場合のマンション価格は投資物件としての「利回り」で価格が決まります。

購入者は物件に住むのでなく、賃借人から得られる賃料収入から

税金・管理費・修繕積立金など支出を引いた収益を得るために物件を購入しますから、

投資金額に対する利回りが何%かが価格決定の根拠になってしまうのです。

ファミリータイプのマンションを賃貸した場合の賃料水準が面積に比べて低い水準になることは前項で説明した通りです。

実はこのことが賃貸した状態での物件価格を引き下げる原因にもなっています。

物件金額が高い割に、得られる賃料収入が低いわけですから、その賃貸経営は「儲からない」ということは何となくわかると思います。

ここでは難しい利回りの説明は省略しますが、マンションを賃貸したまま売却しようとすると、賃貸していない場合に比べて価格が下がるというデメリットがあります。

・不動産賃貸には「リスク」がある

マンションを売却せず賃貸した場合、不動産投資と同様に様々な「リスク」を負うことになります。

ここでいう「リスク」は一般的に使う「危ない」「危険」という意味ではなく「賃料の不確実性」「予測不可能なこと」を意味します。

もっと簡単に言うと、「賃料が得られなくなる、予測不可能なこと」と言えます。

不動産投資の記事や本には何種類もいろいろ書かれていますが、代表的なものを上げてみます。

賃料下落リスク・・・景気変動等で賃料が下がり収入が減るリスク
金利上昇リスク・・・ローン金利上昇によって支出が増加し、収益が減少するリスク
管理・修繕リスク・・・マンションの経年劣化による大規模修繕やガス給湯器等の劣化による交換費用など、メンテナンスコストが増加することにより収益が減少するリスク
火災・地震リスク・・・火災や地震の発生により物件が滅失若しくは毀損するリスク

上げるともっと「リスク」はあるのですが、不動産投資のお話をする機会に詳しく説明します。

ここで最も重要なリスクが2つあります。

空室リスク・・・空室になることにより賃料収入が途絶えてしまうリスク
滞納リスク・・・賃借人が入居しているが家賃の滞納により収入が途絶えるリスク

この二つとも賃料収入が途絶えてしまう「リスク」です。

こうなってしまうと収入がありませんから、保有コストだけが出ていくことになります。

空室になった場合、その機会に売却するか?再度賃借人を募集するか?

次のデメリットを読んで下さい。

・売却目的で賃借人を退去させるため、立ち退き料の負担が必要なケースがある

マンションを賃貸したときの売却価格が低くなることをお話しましたが、それでは賃貸をやめて空室にしてから普通に売却することが考えられます。

ところが今現在入居中の賃借人が立ち退きに応じてくれるかどうか?

正にケース・バイ・ケースです。

通常、居住用物件賃貸借契約の解約予告は、賃貸人からは6か月前、賃借人からは1~2か月前に通知することが一般的です。

私も何度も「立ち退き」案件を売買仲介したことがあるのですが、中には貸主の通知を見て

「わかりました」

と、素直に退去してくれる賃借人もいます。

しかし、賃借人は突然出ていかなければならないため、次の物件を探さなければなりません。

場合によっては敷金・礼金や仲介手数料を支払う余裕がない事も十分あり得るわけです。

さらに「この時ばかりに」と、「ゴネ得」を狙え、と入れ知恵する友人が現れる事があります

すると賃借人が

「立ち退き料を貰わない限り出ていかない」

と言って居座りモメ事が発生します。

立ち退き料は大体、賃料の半年分位が目安と言われる事が多いとですが、あくまで相手次第。交渉しないとわかりません。

貸しているマンションが相場よりも安い賃料設定だった場合、

「このマンションと同じグレードで同じ家賃の物件はない」

などと言われてしまうケースが何度かありました。
すると単純に賃料の何か月ということでなく、引っ越し先の賃料分と敷金・礼金等を見越した額を支払うケースもあり得ます。

このように多額の立ち退き料を支払うケースがあることや、それに要する交渉の手間など、所有者には頭の痛い手間のかかる作業があり得ることは大きなデメリットと言えます。

提案


いかがだったでしょうか?

私は個人的にマンションを売却せず、手元に残すことを理由に賃貸する事はお勧めしません。

イザという時に低い金額でしか売れず、しかも空室・滞納リスクで賃料が得られないリスクもあります。

高く売るために多額の立ち退き料を負担すれば、その後空室で普通に売れたとしても、安く売るのと同じ価格になることもあり得ます。

このようにマンションを売却せずに賃貸した場合、メリットよりもデメリットの方が多いと思います。

著者:神林勝利
不動産鑑定士_神林さん
不動産鑑定士・宅建取引士。1966年生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。野村不動産(株)流通営業部(現・野村不動産アーバンネット株式会社)のリテール向け売買仲介営業マンから不動産鑑定士に転身。独立後約10年間法人経営者として宅建業・鑑定業を営む。法人の営業譲渡後「神林不動産鑑定士事務所」代表として執筆活動や不動産コンサルタントを行っている。